第5話 縁
昨今、どのような職業であれ宣伝は必要でありまして、私どもの表具も例外ではありません。いろいろな営業を試みてはいますが、定期的にパンフレット入りの封筒を送らせていただいたりしています。
表具の場合どうしても、お客様が限られてきますので、送り先も、お寺・茶道教室・書道教室・絵画教室・旅館等などになります。めったにないことですが、タイミングでしょうか、まれに依頼がくることもございまして、はがきが縁で数年前から依頼いただいている、佐賀県嬉野の某老舗旅館のお話。
ある日、そこの担当建築家の方が尋ねて来られ、故鈴田照次さんの染色を屏風に、という依頼でした。うちの店をどうして?と尋ねました所、社長が何かの折にと私が送ったパンフレットを大事に保管をしていたとの事。それも1年半も・・
故鈴田さんは鍋島更紗の復興に力を注いだ方で、最近息子さんの滋人さんが人間国宝になられました。鍋島更紗(抽象化した草花を彫った木版を布に押し付け、輪郭部を描き染める部分だけくり抜いた型紙をあて、刷毛で染色する木版刷り更紗。型押しの繰り返しで生まれる模様と、型を押さない部分の空白との組み合わせでデザインを構成。軽やかさを表現する為に淡い色を多く用いる)
この旅館は知る人ぞ知る鈴田照次さんの作品を旅館の至る所に使ってあります。何せ葉書1枚の縁からですので私も頑張らねばと思い、アイデアをひねってひねって、20程のデザインを描き持参しました。それが功を成したのか、その中の一つが決まり、めでたくご依頼となりました。結果的には、シンプルな市松の屏風になりましたが、作品とも良く合って良い感じの屏風が出来ました。
その後4年程たちますが、いまだに同じ場所に屏風が飾っておられます。社長曰く良い物は動かしたくなくなるそうです。その後建築家の方が亡くなられましたが、未だに依頼をなさる時は、社長自ら、依頼品の渡し・受け取りを行っております。葉書での依頼は、数百枚出した中から今まで二件のみでしたが、何処にどんなご縁あるかわかりません。
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